高次脳機能障害と認知症には、記憶障害や注意障害、言葉の出にくさなど、似た症状がみられることがあります。
「高次脳機能障害と認知症は何が違うの?」
「脳卒中のあとに認知機能が低下した場合は、どちらになるの?」
と疑問に思う方もいるかもしれません。
実は、高次脳機能障害と認知症は、完全に対になる概念ではありません。
高次脳機能障害では、脳の損傷によって、どのような認知機能の障害が生じたのかという視点から症状を捉えます。
一方、認知症では、病気によって認知機能が低下し、日常生活にどの程度影響が生じているのかという全体的な状態を含めて捉えます。
そのため、両者には原因や症状が重なる部分もあります。
この記事では、高次脳機能障害と認知症をそれぞれどのように捉えるのか、また典型的な発症の仕方や経過にはどのような違いがあるのかを解説します。
高次脳機能障害とは
高次脳機能障害とは、脳卒中や頭部外傷などによって脳が損傷し、認知機能に障害が生じた状態です。
国立障害者リハビリテーションセンターでは、学術的な意味での高次脳機能障害について「脳損傷に起因する認知障害全般」としています。
代表的な症状には、
・失語症
・記憶障害
・注意障害
・遂行機能障害
・失行症
・失認症
・社会的行動障害
などがあります。
例えば脳梗塞を発症したあとに言葉が出にくくなった場合には失語症、注意を集中することが難しくなった場合には注意障害など、脳の損傷した場所や範囲によって現れる症状は異なります。
高次脳機能障害では、脳の損傷によって、どのような機能に障害が生じたのかという視点で症状を捉えることができます。
認知症とは
認知症は、特定の一つの病気の名前ではありません。
認知症基本法では、アルツハイマー病などの神経変性疾患や脳血管疾患などによって、日常生活に支障が生じる程度にまで認知機能が低下した状態と定義されています。
認知症には、
・アルツハイマー型認知症
・血管性認知症
・レビー小体型認知症
・前頭側頭型認知症
などがあり、原因となる病気によって症状や経過は異なります。
認知症というと物忘れをイメージすることが多いかもしれませんが、変化するのは記憶だけとは限りません。
注意、言語、判断、物事を計画して実行する能力など、さまざまな認知機能が影響を受けることがあります。
認知症では、こうした認知機能の変化だけでなく、それによって日常生活にどのような影響が生じているのかが重要になります。
認知機能とは?
認知機能とは、外から入ってきた情報を受け取り、理解したり、覚えたり、考えたり、判断したりするための脳の働きです。
記憶、注意、言語、認識、判断、遂行機能など、私たちが日常生活を送るために使っているさまざまな機能が含まれます。
「認知機能」という言葉から認知症を連想する方もいるかもしれませんが、認知機能そのものは認知症だけに関係するものではありません。
高次脳機能にも記憶、注意、言語、遂行機能などが含まれるため、両者には重なる部分が多くあります。
高次脳機能障害と認知症は「切り口」が違う
高次脳機能障害と認知症を理解するときに大切なのは、両者を完全に対になるものとして考えないことです。
高次脳機能障害では、
「脳が損傷した結果、どのような認知機能に障害が生じたのか」
という視点で症状を捉えます。
一方、認知症では、
「病気によって認知機能が低下し、それによって日常生活にどの程度影響が生じているのか」
という全体的な状態を含めて考えます。
よって、記憶障害、注意障害、言語の問題、判断や計画の難しさなどは、どちらにもみられることがあります。
また、高次脳機能障害が重度であれば、日常生活に大きな支援が必要になることもあります。
そのため、症状や日常生活への影響だけを見て、単純にどちらかへ分けられるものではありません。
典型的な発症の仕方には違いがある
両者は重なる部分がありますが、典型的な発症の仕方を比較すると違いが分かりやすくなります。
脳卒中や頭部外傷などによる高次脳機能障害では、
脳卒中や事故が起こる
↓
脳が損傷する
↓
失語症や記憶障害などが現れる
というように、「この出来事のあとから変わった」という境目が比較的分かりやすいことが多くあります。
一方、アルツハイマー型認知症などでは、
「この日から認知症になった」
という明確な境目が分からないことも少なくありません。
「最近、同じ話を何度もするようになった」
「そういえば以前より料理を失敗することが増えていた」
など、少しずつ現れた変化に家族が気付き、後から振り返って「以前から変化が始まっていたのかもしれない」と分かることもあります。
その後の経過にも違いがみられることがある
脳卒中や頭部外傷などによる高次脳機能障害では、原因となった脳損傷によって障害が生じます。
新たな脳卒中など別の脳損傷が起こらなければ、基本的には障害そのものが時間とともに進行していくものではありません。
発症後に症状が改善することもありますし、残った障害についてもリハビリテーションや周囲のサポート、環境調整などによって生活しやすくなることがあります。
一方、アルツハイマー型認知症などでは、原因となる病気そのものが進行するため、長期的には認知機能も徐々に低下していきます。
ただし、認知症の種類によって低下の仕方は異なります。
血管性認知症では高次脳機能障害と原因が重なる
両者の関係を少し複雑にしているのが、血管性認知症です。
血管性認知症は、脳梗塞や脳出血などの脳卒中が関係して生じる認知症です。
一方、脳卒中は高次脳機能障害の代表的な原因でもあります。
つまり、同じ脳血管障害が、高次脳機能障害にも血管性認知症にも関係します。
血管性認知症では、脳血管障害によって認知機能が低下し、日常生活に支障が生じます。
また、新たな脳血管障害が起こることで、認知機能が段階的に低下する場合もあります。
高次脳機能障害がある方でも、新たな脳卒中が起これば、それまでとは異なる高次脳機能障害が加わったり、認知機能がさらに低下したりする可能性があります。
このように考えると、原因や症状だけで高次脳機能障害と認知症を完全に分けることが難しい理由が分かりやすくなります。
高次脳機能障害と認知症が重なることもある
高次脳機能障害と認知症は、どちらか一方しか起こらないものではありません。
例えば、すでに認知症がある方が脳卒中を発症し、新たに失語症が加わることがあります。
反対に、以前に脳卒中を発症して高次脳機能障害がある方が、年齢を重ねて新たに認知症を発症することもあります。
そのため、すでに何らかの認知機能の障害がある場合には、**「以前と比べて何が変わったのか」**を見ることも大切です。
「今までできていたことが急にできなくなった」
「急に言葉が出にくくなった」
「以前にはなかった物忘れが少しずつ増えてきた」
などの変化があれば、もともとの障害によるものと決めつけず、必要に応じて医療機関へ相談しましょう。
まとめ
高次脳機能障害と認知症には、記憶障害、注意障害、言葉の問題など共通する症状があります。
しかし、両者は完全に対になる概念ではなく、そもそも症状を捉える切り口が異なります。
高次脳機能障害では、脳の損傷によってどのような認知機能に障害が生じたのかという視点から症状を捉えます。
一方、認知症では、病気によって認知機能が低下し、それによって日常生活にどの程度影響が生じているのかという全体的な状態を含めて捉えます。
典型的な経過を比較すると、脳卒中や頭部外傷などによる高次脳機能障害では発症の境目が比較的分かりやすく、新たな脳損傷がなければ基本的には進行性ではありません。
一方、アルツハイマー型認知症などでは発症の境目が分かりにくく、原因となる病気の進行に伴って認知機能が徐々に低下していくことが多くあります。
ただし、血管性認知症のように原因が高次脳機能障害と重なるものもあります。
そのため、「この症状があるから高次脳機能障害」「この原因なら認知症」というように一つの特徴だけで考えるのではなく、原因となる病気や発症までの経過、認知機能の状態、日常生活への影響などを含めて考えることが大切です。


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