川島隆太教授監修『言葉がなかなか出てこない人の思い出しドリル大全』は失語症の訓練に使える?言語聴覚士が内容をチェック

教材レビュー

 「言いたい言葉がなかなか出てこない」という症状は、失語症の方にもみられます。

 そのため、『言葉がなかなか出てこない人の思い出しドリル大全』というタイトルを見ると、失語症の語想起訓練にも使いやすそうな印象を受けます。

 今回は実際に本の内容を確認し、失語症の訓練教材として活用できそうか、言語聴覚士の視点からチェックしてみました。

 言葉を使った課題そのものは豊富ですが、失語症の訓練教材として考えると、個人的にはやや使いにくい一冊だと感じました。

言葉を思い出す課題は豊富

 『言葉がなかなか出てこない人の思い出しドリル大全』には、名前を答えたり、知っている言葉や人物などを思い出したりする課題が数多く収録されています。

 「思い出す」ことをテーマにしているだけあって、言葉を使って答える問題自体は豊富です。

 一見すると、失語症の語想起訓練にも取り入れやすそうに感じます。

 しかし、実際に内容を確認してみると、失語症の訓練として使用するには難しいと感じる課題が多くありました。

呼称課題は低頻度語が多く難しめ

 特に気になったのが、物の名前を答える呼称課題です。

 失語症の呼称訓練では、対象となる方の状態に合わせて語彙の難易度を調整することが大切です。

 このドリルに収録されている呼称課題を見てみると、日常生活で頻繁に使う言葉よりも、比較的使用頻度の低い言葉が多い印象を受けました。

 そのため、失語症の方に使用すると、呼称課題そのものの難しさに加えて、出題されている語彙の難しさも加わります。

 比較的軽度の失語症の方であっても、問題によってはかなり難しく感じる可能性がありそうです。

昭和・平成に関する問題が中心

 もう一つ大きな特徴が、昭和や平成に関する問題が中心であることです。

 昭和の総理大臣や、当時の有名人などを思い出す問題も多く収録されています。

 こうした問題は、その時代についてよく知っている方にとっては、昔の出来事を思い出しながら楽しく取り組めるかもしれません。

 一方で、失語症の「言葉を思い出す力」を練習したい場合には注意が必要です。

 答えが出てこなかったときに、失語症による語想起の難しさなのか、そもそもその人物や出来事を知らない・覚えていないのかを分けて考えにくくなるためです。

 対象となる方の年代や興味、知識によっても難易度が大きく変わりそうです。

失語症の語想起訓練としては対象者を選びそう

 タイトルに「言葉がなかなか出てこない人」とあるため、失語症の方にも使いやすいドリルを想像する方もいるかもしれません。

 しかし、実際には低頻度語の呼称や昭和・平成の人物に関する問題など、知識や記憶も必要になる課題が多く含まれています。

 そのため、失語症の語想起訓練として幅広い方に使用できる教材というより、対象となる方を選ぶ教材だと感じました。

 もちろん、昭和・平成の出来事に詳しく、こうしたテーマに興味のある方であれば、会話のきっかけとして利用したり、楽しみながら取り組んだりする使い方はできそうです。

私なら失語症教材として購入する?

 失語症の訓練教材を探しているという目的であれば、私は優先して購入する本ではないかな、というのが実際に中身を確認した感想です。

 言語課題の量自体は多いのですが、失語症の方に取り入れやすい高頻度語を中心とした語想起課題を探している場合には、使いにくさを感じると思います。

 一方、失語症訓練に限定せず、昔の人物や出来事について思い出したり、そこから会話を広げたりする目的であれば、活用できる場面はありそうです。

まとめ

 『言葉がなかなか出てこない人の思い出しドリル大全』は、言葉や人物などを「思い出す」課題が豊富に収録されたドリルです。

 ただし、呼称課題には低頻度語が多く、昭和の総理大臣や有名人など、昭和・平成に関する知識を必要とする問題も多く収録されています。

 そのため、失語症の語想起訓練として使用する場合には、難易度や対象となる方の年代・知識などを考慮する必要があります。

 タイトルからは失語症の語想起訓練にも使いやすそうに感じますが、実際に中身を確認した印象としては、失語症教材としてはやや対象者を選ぶ一冊だと感じました。

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