『失語症訓練のためのドリル集9』レビュー|日常コミュニケーション・生活場面を練習

教材レビュー

 失語症のリハビリでは、単語や文章を理解・表出する練習だけでなく、身につけた力を実際の生活の中で活用することも大切です。

 『失語症訓練のためのドリル集9 日常コミュニケーションの改善をめざす』は、申込書、服薬説明書、時計、新聞、予定表、レシート、メニューなど、実際の日常生活を想定した課題を練習できる教材です。

 実際に内容を確認すると、1〜8巻とは少し性格が異なり、「名詞を想起する」「助詞を練習する」といった特定の言語機能を集中的に練習するというより、現在もっている言語能力を使って日常生活に必要な情報を理解・活用することに重点が置かれている印象でした。

 主に中等度〜軽度の失語症の方に使いやすく、特に生活期のリハビリで検討しやすい一冊だと思います。

『失語症訓練のためのドリル集9』はどんな教材?

 9巻のテーマは「日常コミュニケーション」です。

 扱われているのは、実際の生活で目にしたり利用したりするものが中心です。

 たとえば、時計を見て時刻を確認する、予定表から必要な情報を読み取る、メニューを見て金額を計算するといった課題があります。

 新聞や広告から必要な情報を探す課題もあります。

 そのため、机上で言語機能だけを練習するというより、日常生活の中で必要となる「読む・理解する・探す・計算する・答える」といった能力を組み合わせて使う教材と考えると分かりやすいと思います。

収録されている主な課題

 実際に確認すると、次のような課題が収録されていました。

・申込書に必要事項を記入する
・服薬説明書を読む
・アナログ時計の針を見て時刻を読み取る
・スポーツ記事を読む
・新聞の催し物欄から情報を読み取る
・テレビ番組表から必要な情報を探す
・レシートを確認する
・交通費を計算する
・カレンダーや予定表、時刻表を理解する
・メニューを見て金額を計算する
・電話帳を利用する
・身近な地域についての質問に答える
・手元にある広告や新聞を使って情報を探す
・日常生活を想定した文章問題や計算問題に答える

 言語課題だけではなく、数字や時間、金銭、予定なども扱います。

難易度は中等度〜軽度が中心

 9巻は、主に中等度〜軽度の失語症の方を対象とした内容です。

 課題によって必要となる能力は異なります。

 たとえば時計を読む課題と、新聞記事から情報を読み取る課題では、必要となる言語能力や認知機能も異なります。

 また、金額や交通費を計算する課題では、文章を理解するだけでなく計算する力も必要です。

 そのため、単純に失語症の重症度だけで判断するのではなく、その方が現在どのようなことができ、日常生活のどの場面で困っているのかを考えながら課題を選ぶことが大切だと思います。

「言語機能を改善する」だけではない教材

 9巻を実際に見て、ほかの巻との大きな違いだと感じたのがこの部分です。

 たとえば1巻なら名詞の語想起、4巻なら漢字・仮名、5巻なら助詞や文法というように、改善を目指す言語機能が比較的分かりやすく設定されています。

 一方、9巻では複数の能力を組み合わせて課題を行います。

 予定表を利用するためには、文字を読み、日時を理解し、必要な情報を見つけなければなりません。

 メニューを利用する場合には、料理名や価格を読み、場合によっては金額を計算する必要もあります。

 つまり、一つの言語機能を取り出して練習するというより、現在もっている力を組み合わせて「実際に生活の中で使う」ことを意識した教材です。

生活期のリハビリにも使いやすい

 9巻は、特に生活期のリハビリで使いやすい内容だと思います。

 病院での訓練では、呼称、書字、読解など、障害された言語機能そのものに焦点を当てた課題を行うことがあります。

 一方、実際の生活に戻ると、

「予定を確認する」
「薬の説明を読む」
「メニューを見る」
「広告から欲しい情報を探す」
「時間や金額を確認する」

など、さまざまな能力を組み合わせる必要があります。

 9巻では、こうした日常生活で実際に必要になりやすい活動を机上で練習できるのが特徴です。

 機能そのものの改善だけではなく、「今ある能力を使って、どう生活していくか」という視点で課題を選びたい場合に検討しやすいと思います。

8巻との違いは?

 8巻と9巻はどちらもシリーズ後半の比較的難易度の高い教材ですが、目的はかなり異なります。

 『失語症訓練のためのドリル集8 難しい内容表現の改善をめざす』では、物事を説明したり、共通点・相違点を考えたり、長所と短所を挙げたり、感想や意見を述べたりします。(詳しいレビューはこちら

 つまり8巻では、自分で考えた内容を整理して表現することが中心です。

 一方、9巻では、時計、新聞、予定表、メニュー、広告などを利用し、日常生活に必要な情報を理解・活用することが中心となります。

 大まかに分けると、

8巻:考える・整理する・説明する・意見を述べる

9巻:生活に必要な情報を読み取り、実際に活用する

という違いがあります。

 高度な言語表現を練習したい場合には8巻、実生活を想定したコミュニケーションや情報活用を練習したい場合には9巻が選択肢になります。

無料プリントでも練習できる?

 時計、カレンダー、計算など、一つひとつの課題であれば無料教材を見つけられる場合があります。

 一方、9巻の特徴は、それらを失語症の方の日常生活を意識したコミュニケーション課題としてまとめていることです。

 申込書、服薬説明書、新聞、テレビ番組表、レシート、時刻表、メニュー、広告など、さまざまな生活場面が一冊に収録されています。

 そのため、単純な言語課題とは違った、実生活に近い練習をまとめて行いたい場合には、市販教材を購入するメリットを感じやすいと思います。

 また、実際の広告や新聞を利用する課題もあるため、教材に掲載された問題だけでなく、身の回りにあるものを使った訓練へ発展させることもできます。

課題の使い方まで説明されている

 このシリーズでは、それぞれの課題について、

・どのような方に適しているか
・課題の進め方
・ヒントの出し方
・実施上の留意点
・応用した訓練方法

などが説明されています。

 特に9巻では、その方の生活状況によって必要な課題が大きく異なるため、すべてを順番に行うというより、実際の生活で必要となる活動に合わせて課題を選ぶ使い方がしやすいと思います。

 なお、このシリーズには解答が付いていません。

こんな方におすすめ

 『失語症訓練のためのドリル集9』は、

・単語や文章だけでなく、実生活に近い課題を練習したい
・予定表や時刻表から必要な情報を読み取る練習をしたい
・新聞や広告から情報を探すことが難しい
・時計、金額、予定などを含む課題を練習したい
・生活の中で現在の言語能力を活用する練習をしたい
・生活期のリハビリで使える教材を探している

といった方におすすめです。

まとめ

 『失語症訓練のためのドリル集9』は、申込書、服薬説明書、時計、新聞、テレビ番組表、予定表、レシート、メニュー、広告など、実際の日常生活を想定した課題を幅広く収録した教材です。

 1〜8巻のように特定の言語機能を集中的に練習するというより、現在もっている言語能力やその他の能力を組み合わせ、生活の中で活用することに重点が置かれています。

 8巻が説明や比較、意見などの「複雑な内容表現」を扱うのに対し、9巻は「日常生活で必要となる情報の理解・活用」が中心です。

 そのため、特に生活期において、「今ある力を使って、実際の生活をよりスムーズにする」という視点で訓練したい方に検討しやすい一冊だと思います。

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