『失語症訓練のためのドリル集』は、語想起、書字、文法、読解、文作成、日常コミュニケーションなど、失語症のさまざまな症状に対応した全9巻のシリーズです。
9冊もあるため、
「どの巻を選べばいいの?」
「1巻から順番にやったほうがいい?」
「似たようなタイトルだけど何が違うの?」
と迷う方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、『失語症訓練のためのドリル集』1〜9巻を実際に確認し、それぞれの内容や難易度、違いを比較しました。
結論からいうと、このシリーズは1巻から順番に進める教材ではありません。
現在困っている症状や、練習したい言語機能に合わせて巻を選ぶことが大切です。
この記事では、各巻の特徴と「どんな方に向いているのか」をまとめます。
『失語症訓練のためのドリル集』1〜9巻の違いを一覧で比較
まずは、それぞれの巻の大まかな違いをまとめます。
| 巻 | 主な内容 | 難易度の目安 | こんな練習をしたい方に |
|---|---|---|---|
| 1巻 | 名詞の語想起 | 重度〜中等度 | 基本的な名詞の呼称・書字・語想起 |
| 2巻 | 意味・音韻からの名詞の語想起 | 重度〜中等度 | 意味や音を手がかりに語を思い出す |
| 3巻 | 動詞・形容詞・形容動詞 | 重度〜中等度 | 動作・状態を表す語、短い文への発展 |
| 4巻 | 漢字・ひらがな・カタカナ | 重度〜中等度 | 書字、文字想起、音と文字の対応 |
| 5巻 | 助詞・文法・文構造 | 中等度〜軽度 | 助詞や文法を使って文を組み立てる |
| 6巻 | 文章理解・読解 | 重度〜軽度 | 短文から100文字前後までの文章理解 |
| 7巻 | 文作成・難しい語句 | 中等度〜軽度中心 | 文を作る、長くする、複雑にする |
| 8巻 | 難しい内容表現 | 軽度 | 説明・比較・感想・意見を表現する |
| 9巻 | 日常コミュニケーション | 中等度〜軽度中心 | 日常生活で必要な情報を理解・活用する |
※難易度はあくまで目安です。実際には失語症のタイプや症状、保たれている能力などによって適する課題は異なります。
1巻|基本的な名詞の語想起を練習したい
『失語症訓練のためのドリル集1 語想起(名詞)の改善をめざす』は、名詞の語想起を中心とした教材です。
絵と単語の選択、写字、書称、文章から名詞を想起する課題などが収録されています。
使用されている単語は高頻度〜中頻度語が中心で、重度〜中等度の失語症の方が取り組みやすい内容です。
**「物の名前が出てこない」「まずは基本的な名詞の練習をしたい」**という場合には、1巻が選択肢になります。
一方、基本的な呼称や絵と単語のマッチングなどは無料プリントでも比較的練習しやすい課題です。
まず無料教材を試して、より体系的に練習したい場合に購入を検討してもよいと思います。
→ 『失語症訓練のためのドリル集1』の詳しいレビューはこちら
2巻|意味や音から名詞の語想起を練習したい
『失語症訓練のためのドリル集2 意味・音韻面から語想起(名詞)の改善をめざす』では、意味と音韻の両面から名詞の語想起を練習します。
カテゴリー分類、仲間外れ、意味的に関連する語の想起に加えて、モーラ数(音の数)、語頭音、単語内の音の位置、音韻類似語などの課題が収録されています。
1巻が比較的基本的な名詞の呼称・書字を扱うのに対し、2巻では**「意味」や「音」の処理から語想起へアプローチする**のが特徴です。
特に音韻課題は無料プリントでは種類を揃えにくいため、個人的には1巻よりも市販教材を購入するメリットを感じやすい内容でした。
**「言葉が出にくいので、意味や音を手がかりに練習したい」**という場合に検討しやすい一冊です。
→ 『失語症訓練のためのドリル集2』の詳しいレビューはこちら
3巻|動詞・形容詞を練習したい
『失語症訓練のためのドリル集3 動作・状態を表す語の改善をめざす』は、動詞・形容詞・形容動詞を扱います。
実際には全体の約3/4が動詞課題で、残りが形容詞・形容動詞です。
動作絵から動詞を選ぶ、写す、想起するといった課題から、動詞を使って2語文を作る課題へ進みます。
そのため、
「名詞は比較的出るけれど動詞が出にくい」
「単語から短い文章へ進みたい」
という方に向いています。
形容詞・形容動詞をたくさん練習したい場合には、タイトルから想像するより問題数が少ない可能性があるため注意が必要です。
→ 『失語症訓練のためのドリル集3』の詳しいレビューはこちら
4巻|漢字・ひらがな・カタカナを練習したい
『失語症訓練のためのドリル集4 漢字・仮名の改善をめざす』は、書字を中心とした教材です。
漢字の選択・書字だけでなく、漢字と仮名の対応、ひらがなの並び替え、ひらがな・カタカナでの書称などが収録されています。
タイトルから漢字中心の教材を想像するかもしれませんが、実際には漢字よりも仮名を扱った課題がやや多めでした。
2巻との違いもポイントです。
2巻では意味や音を手がかりとして「ことば」を思い出す課題が中心ですが、4巻では、ことばから文字を思い出したり、音と文字を対応させたりします。
**「言いたい単語は分かるけれど文字が出てこない」「ひらがなやカタカナの想起・配列が難しい」**という方に検討しやすい一冊です。
→ 『失語症訓練のためのドリル集4』の詳しいレビューはこちら
5巻|助詞・文法を練習したい
『失語症訓練のためのドリル集5 文構成の改善をめざす』は、助詞や文法、文構造を扱います。
格助詞の選択・穴埋め・修正をはじめ、時制、授受表現、能動文・受動文、使役文、接続助詞などが収録されています。
タイトルに「文構成」とありますが、自由に文章を作ることが中心というより、助詞や文法を使って文を正しく組み立てる練習が中心です。
**「単語は出るけれど助詞がうまく使えない」「文法的に文章を組み立てることが難しい」**という方に向いています。
文章を自分で作る練習を中心に行いたい場合には、7巻のほうが目的に合っています。
→ 『失語症訓練のためのドリル集5』の詳しいレビューはこちら
6巻|文章の読解・理解を練習したい
『失語症訓練のためのドリル集6 長い文の理解の改善をめざす』は、文章理解を練習する教材です。
約20文字の文章から始まり、約40文字、50〜100文字、最終的には約120文字まで文章量が増えていきます。
短い文章から少しずつ文章量を増やせる点が特徴です。
ただし、購入前に知っておきたい点もあります。
「長い文」といっても最長約120文字程度で、新聞記事のような長文を扱う教材ではありません。
また、92ページとシリーズの中では最も薄く、それぞれの難易度の問題数もそれほど多くありません。
**「短文は理解できるようになったので、少しずつ長い文章へ進みたい」**という方には使いやすい一方、数百文字の長文読解をたくさん行いたい方は、ほかの教材も検討したほうがよいと思います。
→ 『失語症訓練のためのドリル集6』の詳しいレビューはこちら
7巻|文章を作り、長く複雑にしたい
『失語症訓練のためのドリル集7 文作成と難しい語句の改善をめざす』は、文作成を本格的に練習する教材です。
指定された単語から文章を作る、文章に情報を追加する、2つの文章を1つにまとめる、関係節を含む文章を作るなどの課題があります。
5巻との違いを簡単にまとめると、
5巻:助詞・文法・文型を練習する
7巻:実際に文を作り、長く複雑にする
という違いです。
また、購入前に知っておきたいのが、7巻の約1/3は語想起課題ということです。
そのため文作成だけを大量に練習する本ではありませんが、語彙の練習も行いながら文章表現を伸ばしたい方には使いやすい構成です。
関係節や2文の統合などは無料プリントでは比較的見つけにくく、市販教材を購入するメリットを感じやすい部分だと思います。
→ 『失語症訓練のためのドリル集7』の詳しいレビューはこちら
8巻|説明・比較・意見など高度な表現を練習したい
『失語症訓練のためのドリル集8 難しい内容表現の改善をめざす』は、主に軽度の失語症の方向けの教材です。
物事を説明する、2つの物の共通点や相違点を考える、長所・短所を挙げる、状況への対応を考える、文章を読んで感想や意見を述べるといった課題が収録されています。
すべての課題で文章レベルの書字または発話が必要です。
7巻では「文章を作ること」が中心でしたが、8巻ではさらに進んで、「何を伝えるのか」を自分で考え、整理して表現することが求められます。
**「日常会話はある程度できるけれど、説明や意見など複雑な内容になるとうまく伝えられない」**という方に検討しやすい一冊です。
自由度の高い表現課題は無料教材では揃えにくいため、市販教材ならではの内容も比較的多いと思います。
→ 『失語症訓練のためのドリル集8』の詳しいレビューはこちら
9巻|日常生活に近いコミュニケーションを練習したい
『失語症訓練のためのドリル集9 日常コミュニケーションの改善をめざす』は、シリーズの中でも少し特徴の異なる一冊です。
申込書、服薬説明書、時計、新聞、テレビ番組表、レシート、予定表、時刻表、メニュー、広告など、実際の生活で目にするものを使った課題が収録されています。
特定の言語機能だけを取り出して練習するというより、現在もっている能力を組み合わせて、日常生活の中で活用することを意識した内容です。
そのため、特に生活期のリハビリで使いやすいと思います。
8巻との違いを簡単にまとめると、
8巻:考えを整理し、説明や意見として表現する
9巻:生活に必要な情報を読み取り、実際に活用する
となります。
**「訓練室の課題だけでなく、実際の生活に近い練習をしたい」**という方には9巻が選択肢になります。
→ 『失語症訓練のためのドリル集9』の詳しいレビューはこちら
症状・目的別|どの巻がおすすめ?
「結局どれを選べばいいの?」という場合は、現在困っていることから選ぶと分かりやすいと思います。
物の名前が出てこない
まず基本的な名詞の呼称・語想起を練習したい場合は1巻。
意味や音韻をヒントにして語想起を練習したい場合は2巻が候補になります。
動詞が出てこない
動作を表す言葉が出にくい場合は3巻。
形容詞・形容動詞も収録されていますが、約3/4は動詞課題です。
文字を書くことが難しい
漢字・ひらがな・カタカナの書字や、音と文字の対応を練習したい場合は4巻。
助詞を間違える・文法が難しい
格助詞をはじめ、時制、授受表現、受動文、使役文などを練習したい場合は5巻。
文章を読むと理解できなくなる
短文から徐々に文章量を増やして読解を練習したい場合は6巻。
ただし最長約120文字なので、それ以上の長文を希望する場合は別教材も検討します。
自分で文章を作ることが難しい
単語や短い文は出るものの、文章を作ったり長くしたりすることが難しい場合は7巻。
説明や意見をうまく伝えられない
文章は作れるものの、説明・比較・感想・意見など複雑な内容を表現することが難しい場合は8巻。
実際の生活に近い練習をしたい
予定表、時計、新聞、広告、メニューなど、生活に必要な情報を利用する練習をしたい場合は9巻。
生活期のリハビリにも検討しやすい内容です。
1巻から順番に購入する必要はない
全9巻ありますが、1巻から9巻まで順番に進めるシリーズではありません。
失語症では、「話す・聞く・読む・書く」の症状が一人ひとり異なります。
たとえば軽度の方だから必ず8巻というわけではなく、軽度でも書字に困っているのであれば4巻が適している場合があります。
反対に、比較的重い失語症があっても、保たれている能力によっては別の巻の一部課題を利用できることもあります。
そのため、
重症度だけで選ぶのではなく、「今何に困っているのか」「何を練習したいのか」で選ぶ
ことをおすすめします。
無料プリントと市販教材、どちらを使う?
失語症の訓練プリントには、探せば無料で利用できるものもあります。
基本的な呼称、絵と単語のマッチング、写字、助詞の穴埋め、反対語などは無料教材でも練習しやすい課題です。
そのため、まず無料プリントを試してみるのもよいと思います。
一方、市販教材には、
・課題が難易度別・目的別に整理されている
・さまざまな種類の課題がまとまっている
・課題の対象者や進め方が説明されている
・ヒントの出し方や留意点が書かれている
・応用した訓練方法も紹介されている
といったメリットがあります。
特に、
2巻の音韻課題
5巻のさまざまな文法課題
7巻の関係節や文の統合
8巻の説明・比較・意見などの自由度の高い表現課題
9巻の日常生活を想定した課題
などは、同じような内容を無料教材だけでまとめて揃えるのが難しい部分です。
「無料だからダメ」「市販だから良い」ということではなく、練習したい内容によって使い分けるのがよいと思います。
『失語症訓練のためのドリル集』シリーズ共通の特徴
9冊を確認して感じたシリーズ共通の特徴は、単に問題が掲載されているだけではないことです。
それぞれの課題について、
・どのような方に適しているか
・課題の進め方
・ヒントの出し方
・実施上の留意点
・応用した訓練方法
などが説明されています。
また、文字は比較的大きく、書き込みスペースにも余裕があります。
一方、シリーズには解答が付いていません。
特に文法や難しい語句を扱う巻では、答えを確認しづらい問題もあるため、購入前に知っておきたいポイントです。
まとめ|「何を練習したいか」で選ぼう
『失語症訓練のためのドリル集』は全9巻ありますが、それぞれ練習する内容が大きく異なります。
大まかに整理すると、
1巻:基本的な名詞の語想起
2巻:意味・音韻からの名詞の語想起
3巻:動詞・形容詞などの表出
4巻:漢字・仮名の書字
5巻:助詞・文法・文構造
6巻:文章理解・読解
7巻:文作成・文の長文化
8巻:説明・比較・感想・意見など高度な表現
9巻:日常生活での情報理解・活用
となります。
全巻を揃える必要はなく、現在困っている症状や練習したい内容に合った巻を選ぶことが大切です。
また、基本的な課題については無料プリントでも練習できます。
まず無料教材を試し、さらに課題の種類を増やしたい、段階的に練習したい、専門的な解説も参考にしたいという場合に、市販教材を取り入れる方法もあります。
それぞれの巻について、実際に内容を確認した詳しいレビューも掲載していますので、購入を検討している方はあわせて参考にしてみてください。


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